私は世間的にみても賢い人間ではない.就活を自分の意志で始めたのが27歳のとき,既卒として探した.やりたいことがいくつかあったが自分で決められなかったため,高校も大学も大学院も父に決めてもらった.今職場で好きな仕事に励んでいられるのは,自分や父の力ではない力が働いたと考えている.自分の意志で決めた大学ではないにもかかわらず入学卒業できた方法を書いておきたいと思う.
私の出身はとある国立大学である.動機は父曰く情報系はつぶしが利くから.一方の自分は将来研究するために必要な情報管理法を学ぶため.結局両方学べた良い大学だった.目標を決めたのは美大を諦めて浪人になった4月.それまで勉強で大学に入ることをまったく考えていなかったうえ,大学へ入らず働きたいと思っていた.本気で.働きつつ研究し成果をウェブで公表する生活を思い描いていた.しかし,高校1年の模試で成績優秀者として名前が載ったためか,予備校の学費全額免除はがきが届き,交通費だけで通えるわけで.両親から学力があるのにもったいないと諭され,そこで1年間過ごすことにした.
その大学の受験科目は全教科を範囲としていたが,さほど頑張らなくても入れる大学に定めた.というのは,さっそく4月の模試で全科目総合の偏差値が66をつけ,もう少しで再び名前が載るくらいだった.夏の模試では案の定名前が載った.こうして簡単に名前が載るとつまらなくなる.結局,研究熱が高くなり,予備校で勉強したことといえば,哲学書を8冊読破したことだ.分からない箇所は覚えておき,言い得て妙な文は記録し,どのような内容だったかをノートに書き留める.正直なところ,これが大学に合格した理由である.
文を読み,何を考え,書きだすか.これが勉強や研究や,大学生や社会人の日常ではないか.予備校は健康を整えるために毎日通った.授業は何も聞かなかった.高校受験までに鍛えた偏差値79の地頭.なぜ東大に行かなかったのかと今ではいろいろな人に訊かれるが,今の人生に何も後悔はないし,これ以外の人生は嫌である.8冊の哲学書によって世間の基準とずれるほどの教養を積めたからだろうか.
