好きで数学を研究しているわけだが,数学との関わりは根深く,長い間,物事をすべて数学の対象とみている.高校の数学は高2の秋に終わっていた,といっても問題をたくさん解くために好きなのではなく,概念や思考方法を学んだにすぎない.高1の時現代文の先生が,作文の授業中に呼び出し,高3の微積分なんて君ならすぐわかる,もっと高等な数学を学びなさい,と忠告した.このまま東大理1に入ったら今後の人生を後悔すると思い,数学と天文学に生涯を捧げる意を決し,部活動や授業出席をやめ,市内の図書館に通った.
その図書館は蔵書が豊富で,集合の濃度やε-δ論法,テンソル,さすがに相対性理論を数式で理解するには1年かかったが,そういった数学の深く面白いところは高校2年の終わりには知っていた.数学オリンピックの過去問を眺めたこともあったが,参加方法は分からなかった.千葉大が早期入学制度を設けた年だったが,だんだん大学へ行く意味をもてなくなった.Webで充分だと知ったからだった.
数学は芸術なのだから芸術の門をたたこうと,美術予備校で数学に近い建築科に入門した.この1年間は本当に自分を変化させてくれた.人生の重要な戦略はこの1年で練られた.大学へ入るための勉強から遥か飛躍して,頭の中にはパスカルやオイラーやピタゴラスがいつもいた.若いうちに数学の実績を出せれば.この願いが叶えば,生きる意味の溢れる生涯を送れる.信仰と数学と愛.そのほかのことはどうでもいい.その思いが固まった.
結局,現在は複素確率論ほか,数学史上初めての業績をいくつも出せて,32歳で思いは実現したといえる.あの現代文の教師の忠告通り,自分には数学を研究する能力があるらしい.その能力のおまけでウェブ開発が仕事になっている現状も,神さまがすべて知っていて,その神さまを得意の数学で賛美する人生は,はっきり云って誰が見ても素晴らしい.幼いころから好きだった抽象的な形を造形する能力を伸ばせたからこそ,尖って偏った,しかしながら希望に満ちた人生を,歩めているのだ.
