工学の息は,まだまだ長い.ムーアの法則が鈍化し,量子計算のCPUを待ち望む状況で,人工知能の特異点が話題に上る.人間は8時間働き,その倍を人工知能に働いてもらい,人口が減ってきたら「人間:人工知能=8:16」という時間比を維持して減らしていく.人間の労働を4時間制にするなら,人工知能の労働は8時間に抑える.無駄なエネルギー損失を抑えられるのは,もう少し世界人口が各地で減少に転じてからだ.人間には存続のために作らなくてはならない装置がたくさんあるし,随時変えていくべきルールも多い.
少なくとも,流通の自動化は最も需要のある,手の付けやすい業界である.車の長時間運転は過酷である.どうして深夜に起きていなければならないのか.朝から買わず前日に買えばよいものを,開店時刻を遅らせれば朝一で届いても間に合うはずのものを,深夜運転は期待に応えている.でも人間,夜は眠るべきだ.20世紀に道路を整備してきたので,運搬も在庫管理もレジも自動にできる.社会で必要な商品の総量や地域への分配量が計算できるので,経済の目的が人間の存続へと変わる.企業の重心が利潤の追求より継続的な商品提供や品質改善へ変わる.
レジが自動になっても,商品の品質確認や品出しや防犯役など,無人店舗にするにはより重層的な管理が必要だろう.マイナンバーと犯罪未遂情報がリンクすることが公に知れるまで,店舗に人間は必要だろう.運転手も,タクシーやライドシェア市場は続くだろうし飛行車も登場するので仕事に困らないはず.全自動稼働は設計も管理も難しいので,人間の従業員に役割はあると思う.労働は健康維持活動になる.富の格差が法律で均されても,幸福感にさほど変化はないはず.
作らなければならない装置.例えば軌路力学によると,原子・電子間のポテンシャルエネルギーを利用し,波長を制御してスピンの向きを操作することで二値論理を計算できる原子コンピュータが作れることが分かるのだが,計算が本当に早くなってしまう.電子スピンの軌跡で計算するので,ほんの短い時間で空間だけでなく時間からも自由になってしまう.それでいいのか.電子回路の概念は遺産になってしまうが,クロック数は再び伸びを示すし,計算は省エネ一筋で進む.この100年も計算機と自動化による労働や資本からの解放を主題にし,時代は針路を変えていく.楽観したい.
