私たちは無料の出版社を携帯している.ブラウザの入力ボックスに文字を抛り検索ボタンを押すと,小一時間でも読めないくらいの文字列が得られる.それらは個人使用のためなら複製も編集も変換もできる.ブラウザはもう一度読むためにページに割り当てられた住所も記憶できる.資料を探す手間や管理する手間は省かれ,資料の嗜好をデータベースに記録すると好むページを推薦してくれる.
検索ワードの集合を検索空間と呼ぶ.検索空間は個人で異なるため,個人の嗜好を個人のものとみるならば検索空間は広がりにくい.かつての「専門」とは閉じた検索空間のことである.ところが,検索空間を誰かと少しでも共有するなら,むしろ検索空間はすばやく拡散する.誰それの興味関心に釣られ,発見的世界を探索していく.誰がなにを探しているか,知る方法と知らせるこつを,SNSはつかさどる.
「検索空間の共有」を実現しているSNSは数あれど,共有する方法はさまざまである.友人知人の推薦,タグによる検索語作成.文字列でつながることを得意とするWebは,マルチメディアを実現するデバイスをつなげたことで,同時代人に万能性を見せつけている.必ずしも人が使わない道具をつなげることに着目する少し先の未来.その先にあるものは必ずや孤立や戦争とは無縁であるに相違ない.
Web時代は混沌として先が見えない,全体像を把握できにくい,信憑性のある情報を得るための海図がほしい.そうした声はWebの黎明期には学校でも教えられていた.しかし,Webの仕組みと使い方をマスターし,実際に使い倒してみれば,時代を左右する怪物の正体が分かり,生きやすく楽しくなってくる.そうした人が増えるように,これから数年かけてWebの講義をウェブサイトで行いたい.
