電子書籍が紙の本を凌ぐと雖も普及は遅い.電子書籍が出ている書籍はほんの一部だし,所謂電子書籍端末は押し並べて白黒である.しかも電子で出ている書籍を見ると,紙版とレイアウトが異なることが多く,その多くは紙よりも読みにくい.だから今から電子書籍で読みたい人には,一度紙で買って自炊したほうが良いですよ,と勧めたくなる.現状これが最も読みやすくする方法だと思う.
日本で電子書籍が遅れている理由は大体想像がつく.アマゾンも楽天も本は主要な商品であり,紙で販売したい出版社の抵抗を受け,一部の雑誌サブスクのほかに電子化に消極的なのだろう.活字離れといわれながらもウェブのユーザーが広がり,テレビを見ずに動画を見るなら,読書に時間を使わない.登場して10年経っても変化のない電子書籍市場.ゲームチェンジャーが現れる気配もない.これでいいのだろうか.
街から書店が消えている.本の質は年々上がっていると感じる.文章を書く人は圧倒的に増加している.この変化をうまく掬うビジネスモデルを,誰も考案しないし実施しない.読書の将来が危ないと感じる.文庫は未来もあってほしいし,紙の本を一冊も置かない書斎は考えにくい.けれども,電子が7割を超える蔵書は普通のことになるだろう.読み書きで活字に触れる時間はむしろ増加する.
本の文化の衰退は杞憂であると願うけど,時代は戻らないものだ.本が読める道具も電子書籍端末だけではなくなるし,文字が打てる道具もキーボードだけではなくなるかもしれず,一体どうなるのか甚だ楽しみで,結局自分が育ってきた時代の文化は遺物になり,新しい経済がもたらす技術革新に随いていくほかなく,一抹のかなしさを覚えるが,期待のほうが上回っている.
