万物は数学で記述できるが,数値にならないものがあるという人もいる.数字は冷たいという.しかし,人間は測れないものについて知ることができないのである.科学を支える数式は測れる指標を組み合わせたものだ.人工知能が万能化できるのも,万物が数式で記述できるからだ.もし不測の事態が起こったら,その現象を測るための未知の指標があるのだ.指標ができるほど世界がくっきりみえてくる.
現象は物理量で表せるので,測定できる.速さという指標がなかった時代には,動くものはどれも動くとしか言いようがなかったが,速さが手軽に測れるようになったので,速度違反を取り締まれるようになった.測るためには,指標の定義と測定器具が必要だ.もし指標が不足しているなら新規に指標を定義して,測定用具を開発すればよい.未知の指標なら産業になるだろう.
測定できるなら,その現象は予測できる.その現象を起こすすべての指標が揃ったら,その現象は完全に記述され理解できたことになるので,その指標で予測できる.現象が予測しきれないなら,まだ知られていない量がある.見過ごされて観測されない量があるのだ.おそらく,未知の現象よりも未知の指標のほうが,世界にはたくさん埋まっている.人間をめぐる感覚現象にも,主観による評価の他に,反応時間,復帰時間,持続時間,残存時間などの時間指標や,反応速度,休息頻度など,数字になる指標はいくらでもある.測定できないことは知ることができない.少しでも知れる事柄ならば,測る方法があるはずだ.
食事の時間は10分で,胃の容積は数リットルだから,1回で食事できる食物の量が求まる.それが1日3回ある.これに日本の人口を掛けると,日本の人口を維持するために必要な食料の量が求まる,というように.計算によって測るとき,式の立て方によって役立つ指標が定義できる.指標を立てて見積もる習慣は投資にも役立つのでおすすめしたい.測りえぬものについては知ることができない.
