本棚に読み尽くせない量の本が並ぶ.本は文字の並びだ.文字の数は有限で,1万字も読めれば大抵どんな本でも正しく読める.ところが,字の読み方を知っていても,すべての文を読めるとは限らない.読字時間と読解能率は有限時間の中での話し.そこで人類は読んだ文字を記憶するために知識を創造し,理解するために意味を考案した.知識と意味は無限に創造できる.自然に潜んでいる情報量は有限であるにもかかわらず.
自然に隠れている情報量は保存する.科学とは潜在する情報を発見することで顕在化することである.顕在化した情報と潜在する情報を足すと一定である.これを情報量の保存則という.顕在化した情報は,観測結果として常に得られるデータであり,専ら物理量の計測である.一方,潜在する情報は未知の物理量や未発見の物質構成や未知数の可能性のことである.人間はその量を見積もることができないので,人間は発見を繰り返し積み重ねてきたといえる.しかし,発見はいつか終わり,自然を知り尽くせるのではないかと思わせる.
そこで知識が効果を持つ.知識は情報を文字にし,文字を組み合わせて知識を創造する.情報の発見を予期する知識は理論といわれ,多くの情報を引き出せた知識ほど優れた理論である.知識は無限に生まれ得るだろうか.文字の組み合わせは可算無限ある.文字列の意味も可算無限あり得る.すると知識も可算無限あるのだろう.文字の組み合わせで表現しうる知識であれば,そうである.
つまりは世界を描く材料が文字だったから,知識も意味も現在まで保存された.この文明は文字で保存するのだから文字に依存している.アプリオリに正しい文はない,という文はアプリオリに正しいだろうか.文字で書き尽くせないことについては静かにしていたほうが,あとで文字にしやすい.文字を使うことは情報を発見していくこと.いつまでも情報を発見することを文字を使う動機にしたい.だれも文にしたことがない情報を残し続けるために.
