若い時に想像していたこととは異なり,大人の生活は毎日よく設計された楽しいものである.仕事に楽しみがあるし,休みの日にも取り組める有意義な課題を持っているし,余程の落ち度がない限り生活に丁度良い程度の収入をいつまでも確保できる.困ったことも特に起きず,きょうもこのようにしたためる時間を持てている.しかし,自分がこのような人生を歩めているのは,それまでいろいろなことに失敗してきたからかもしれない.首を突っ込み,挑戦し,敗退した経験である.
なんとか入門と題された本を,学生のときに100冊読んだ.経済入門,電子回路入門,アフリカ学入門.なぜかといえば,すべてのことがらを6割知っていることは,6割のことをすべて知っていることに勝る,と考えていたからである.全く知らないことがあると,そこが弱点になり,幅が広がらないことがある.実際100冊では足りず,社会人になっても入門書を読んでいた分野はあるし,いまでも知らない分野はある.でも,全く知らない分野はもうあまりないし,今後そういう分野に出くわしても,調べ方はすぐに分かる.この入門書を読みこなしたことが,生活に役立っている.
また,高校を転学して異分野に身を入れた経験が,多分に人生を貴重にした.エスカレーター式に就職する人生に嫌気が差して蹴った,そういう身構えが,波乱万丈な経歴を作ってしまったけれども,ウェブ人生の満足をもたらしているのがこの生意気なほどの恰好なのだから,何が人生を豊かにするかなど,その時が来てみないとわからないものだ.実際もう恐怖も苦しみも不安もない.数年以上はそうである.専攻をひとつ持つだけでは,人生は単調なものにしかならなかっただろう.
もう一つは信仰を持ったことだ.週末の教会中心の生活になってから,不眠や夜型や精神症状さえなくなり,健康を維持できている.夕方の空を見て美しいと思う,高校生の時の感度を回復し,今なら思ったことをなんでも実現できる確信がある.人生はあと60年はあるはず.まだ大人びる必要はないし,経験談を語れるほどになる必要もないだろう.32歳という若さにもかかわらず,次々と困難に立ち向かう人生ではなく,道を平坦にする人生を選ぶことは聖書が教えてくれた.そういう知恵を教えることなら,したほうがいい,歴史のある聖書から学ばずに経験から学ぶ人は愚かであるから.
