昔社会人1年目だった時,科学雑誌を購読していた.Nature誌である.毎週届くので毎回全部読むことはできなかったが,文化として科学に親しくなれたことは生活に希望をもたらしてくれたし,技術の将来を幾分気楽に案じてみたものだった.気になる研究は読み,紹介できるよう和訳する癖をつけるうち,文章が上達したと思う.ただ,購読料は高価で,家計を逼迫してしまい,職を失ったこともあり,1年と少しで解約してしまった.今では考えにくいが,お金に困っていた時期をしっかり経験できたのだ.
そのNature誌は実家の書棚に並べてあるが,このたび半年分くらいをわが家へ送ってもらおうと考えている.というのは,Nature誌は世界で有数の雑誌であるので,誌面が実に美しい.特に論文中の図の作り込みはすばらしく,図を見るだけで研究の概要を捉えられる.高校程度の知識でも充分に楽しめる雑誌だ.さらに,写真を多用したり,企画的な特集の組み方など,関心をそそられる記事は,毎号出色である.そんな雑誌に出資するなんて面白い趣味をもっていたものである.
このNature誌の背番は,実は今回の転職先の仕事に直結して役立つのである.Webの管理においても定期刊行物等の誌面の編集においても,「情報デザイン」「インフォグラフィクス」「図解」の素養は必須であるため,折角実家にNature誌が溜めてあるので,スクラップブックを作ろうと思ったのだ.ウェブデザインという仕事は,物事を本質で捉える感覚を日常で研ぐような職能を持つ.自宅には建築や哲学や数学の本も多いが,研究所のWeb管理を職にするのだから今後も研鑽は続く.
好きこそものの,というように,自分はほんとうにこのウェブデザインという職業を愛している.愛しているので,長く続いている.死ぬまで飽きることがなさそうだと楽観できるほどだ.勉強しなければならない本を多く書棚に並べ,いつでも読めるようにしておき,ときどき人に教える.このような生活を確立した.この速度配分で続けていけば,転職先でもやっていけるに相違ない.好きな仕事に恵まれたことに対して感謝を深めなければならない.
