向かって左に見えるサムネイル画像は,東京駅近くで開業したKITTEである.日本郵便が事業主であるこの建物では,工芸品,デザイナー製品,ファッションなどを扱っており,ここでしか見たことがないものが多いように思った.近所にはOAZOの丸善や八重洲ブックセンターもあり,学生のときにはTXで本を求めに来て一日中入り浸り,夜行バスで帰ったものだった.
学生の幸福は,印象を感じるところだろうか,感覚が鋭い分,精神がまだ未熟なのだが,建物内部の感覚や文章に対する感覚は研ぎ澄まされる時期で,多くの作品に出合うほど幸福を弥増せる.自分で美しいと思うものを生むことができるようになれば占めたもので,生涯を豊かに過ごせる.これについては断言したい.
ただ,印象を鮮烈に感じられる時期は,いつか終わりが来る.あまりに多くの幸福を味わうと,それ以上を求めなくなる.仕事に打ち込むことに切り替えたり,家庭生活を毎日健康に過ごすことに軸足を置いたり,理由は人それぞれだろう.それでも,耽美的生活を終わりにしたくなる時期が,いつかやってくる.「果てない夢がちゃんと終わりますように」.
その後,日常の生活の中に喜びを見出し,真の幸福を知る長い人生が待っているのだが,その時になっても耽美的印象派な時代を過ごした思い出は,さすがに鮮烈なだけあって多くを覚えている.年を重ねても覚え続けているだろう.学生時代に夜分まで本を探し,ゲノムの講演を聞きに行き,社会人として開発現場に赴いた,この丸の内の街には,わが内側に複層する時間が今でも流れている.
