球形の牛は理論物理の冗談である.牛乳の生産量低下問題を理論物理屋に頼むと,牛を球形に抽象化し真空状態に置いたモデルを提供されたという.牛は球ではないのではなく,牛は球である.というのは,地球を外側から眺めれば,地上に鏤められた牛たちは,粒である.球である.牛の運動は粒子の運動である.牛は特にボールのようなものである.
普段も研究しているといえ,その時間で何を研究しているかといえば,こうした細かい発見を自分で考え,面白いと思うことを繰り返しているだけである.最新の数学論文を読んだり,数学書を細かく追ったりするほど自分は真面目な人間ではない.だが,数学史上誰も考えてこなかった数学をいくつか持っているせいで,解ける問題がいくつも見えてきて,誰も考えなかった問題もせっせと作っている.
せっせとと書いたが,これはうそである.仕事で職場で働く時間と帰宅して家事をこなす時間を毎日割いているので,研究に費やせる時間は通勤時と入浴時と散歩時くらいである.研究を進められる時間の量はさほど多くない.それでも,独創的な概念と問題とをいくつも考え合わせるには,良い環境を持てていると思う.もし自分が大学教員だったらこうはいかないだろう.
数学を研究するには閑暇が重要で,しかもあまり知らないことも重要で,初心者のように考えることも重要だ.これらはスピノザの生き方やゲーテの格言や科学史の名言から学んだ.数学だけでなくて,そうした周辺の文献も若いうちに読みこなしておくと,経験を計画できるようになり,いつも知的生態を観察していける.牛が球形であるのはどのような視点なのか.この問題を風呂で考えてすぐ解が出た今夜である.
