本に囲まれて幸せな時間に,背表紙を眺めてぼうっとしていると,本の内容がふぁーっと蘇り,本と本とがつながると,そこから話を作るように背表紙を並び替えて,再びぼうっとする.仕事から帰ってきて自宅の書斎でしていることといえば,最近はこんなことだ.本棚にも衣替えならぬ配置換えの季節が来ていて,読書の秋物を書斎に優先して取り揃える.
書斎はすっかり秋めいて好きな本ばかりが並び,どれから読んでいこうかと思う間もなく,手当たり次第に頁を繰り,目に入る図や文字や目次や装丁に満足して,まだ知らないことの多い若い時間に,これだけ知ってもまだ知らないことがあるから人生は長く用意されていると希望を持ちつつ,いつになったらこれらの本をすべて読み取れるか考えると本の総厚が楽しみに変わる.
読み方にこだわりがあって,一字一句すべて追って暗記するまで追い,一字一句暗唱して初めて人生に役立つ読書となるという想念が,良くも悪くも読書欲を駆り立てる.しかしそれは決して達成されない欲である.無理である.それでも,一字一句追いたい欲は一冊の本を何度も読むように暗示し,多くの本の並びの前で立ち止まらせ,あぁ時間がないと嘆かせるのだ.
書斎の机には40冊の本が並ぶ.居間には200冊,妻の分も含めれば我が家の蔵書は600冊を超していると思われる.どうして本を買ってしまうか,最近は買う前によく考えるようになって,本は進んで買うものではなく,買ってしまったという失敗態で表現する行為となっている.年末に帰省する際に,実家の蔵書を半減させ,十数冊は持ち出そうと思っている.
