考えたこともない事柄が,世にはある.年を重ねればめったに出くわすことはないのかもしれない.でも,世の少数派である賢者や金持ち,本当に侘しい暮らしをしている人,希少な障がいとともに暮らす人たち,そういう人たちが身近にいない大人にはまさか出合うこともない考え方がある.これに気づくと,普段そんなことを考えて生きる人ばかりなのかもしれないな,と社会が新しく感じられる.
自分は思想が好きである.思想とは考えやアイデアを指す語だが,いつも話を聞くときは思想を取り出している.この人がこう云うのはどのような背景思想によるのだろうと.一度その人の考え方の法則を知ってしまえばこちらのもの.その人とは仲を深めることも,離れてしまうことも,多分自由にできる.なぜなら,その人の本体を知ってひとつ豊かになれたからだ.
昔から思うのだが,ストレスとか人間関係とか職場での悩みを,思想に関心がある人は異なった風に処理しているのではないかということだ.なぜなら,考えても仕方ないことを考えたり,とても細かいことで気にしたり,それらを考えてしまう自分に悩んだり,そういうことを思想の訓練をした人は異なって捉えているからだ.考えても仕方がないことはないので考え続ければ面白い結論に達するし,細かいところを考えうるほど神経が繊細なのだろうし,考えは言語で処理できるのだから言語をとにかく使って処理する.
日本には思考停止系の思想しかなかった気がする.四字熟語を掲げたりする類のものだ.翻って現代は冗長に語る思考が溢れ返ってきわめて楽しい時代になっている.思想は物事を解決したり,生活上の知恵として存在するだけでなく,何か新しい問題を提起したり個人の新鮮な価値を伴って存在しうる.楽しいだけではない,もう少し複雑な何かを,それらの思考から拾ってみたい.
