通勤で読んだ雑誌の記事のなかで,反出生主義という考えがあることを知った.人は生まれてくるべきでない,という考えである.子どもに同意を得られないならその子を生むべきではない,という修辞を掲げていた.なぜ生まれてくることに反対するかといえば,人生は苦しみばかりであるからだという.子どもは人生で苦しめられないべきであると.
この考えでは,もし子どもが自らの人生が苦しみばかりであると理解するなどして,生まれて生きていくことに同意しなければ,その子どもは何らかの手段で生きることを止めなければならなくなる.子どもは今後の長い人生と,今の判断で人生を短く終えることを天秤に掛ける.同意しないことを選ぶ子どもがどれほどいるのだろう.
人生は選択であり,自己決定の連続であるといわれる.しかし,反出生主義が明らかにするのは,人生の始まりは自分で選べない,自己決定は非自決定から始まるほかないという概念である.自分で存在していくには誰かの決定に基づくしかなく,生来の権利として与えられる「誕生権(生まれてくる権利)」は,その権利を行使せざるを得ない,義務のような権利である.基本的人権はその「生まれている義務」が基礎となる.
重要なことは,生まれている義務に「産む義務」は含まれていない,基本的人権には産まない権利が含まれることである.誕生権を行使するには「出産権(産む権利)」を行使してもらわねばならない(行使してもらった人が,親である).出産権や誕生権は義務にはならない.生まれている義務は親が出産権を行使した結果である.義務は権利を行使した結果生じるが,その権利を行使したのは自分ではないから,権利より義務が先に守られる.生まれている義務を守ることにならない行為を政府は当然とってはならない.そんなことを考えた朝だった.
