人間の思考が,速くなっている.ほんの20年前は,CPUがボトルネックで,いくらキーボードを早く打っても,CPUの処理を待っていた.10年前はネットワークがボトルネックで,いくらキーボードを早く打ってCPUが早く処理しても,ウェブサーバーに保存されるのを待っていた.ほんの5年前は,HDDがボトルネックで,いくらキーボードを早く打ってCPUが早く処理してウェブサーバーにすぐにつながっても,PCの起動を待っていた.今やそんなマシンは時代遅れだ.
マシンが記録するに必要なスペックを備えたことで,人間は待つことをしなくなった.そもそもPCを使わなくてもスマホで良くなった.人間は常時ディスプレイでメールやメッセージアプリやウェブをつなげるようになった.人間から待つ機能が標準から失われ,意図的に待たないと待つことを忘れるようになった.何もしない退屈な時間を,真に何もしない時間として使うことは非常に稀になった.人間はいつも考え,生み出し,表し,受ける生活になっていた.
人間の思考が速くなると,同じ時間で多くのことを処理できる.これはPCと同じだ.人間の処理の限界値はどこまで上がるのか.マルチタスクはできないといわれるが,ToDoリストをアプリや脳裡に持ち,いくつものスケジュールやカレンダーや手帳に予定を書き込み,そして最も大事なことだが,それらをうまく忘れる.思考するために余白を作る.シェイクスピアやプルーストやウンベルト・エーコら,人類史上思考速度の早い文豪にまで高められるとするなら,なおのこと.
ことばが薄まるから濃縮する技術を.情報が溢れるから整理する時間を.我らは脳の取説を更新中だ.疲労,ストレス,精神疾患.脳の取説を自分で獲得するために失敗を経験する人は多いが,どうやら人間の可能性は半端なく,思考は無限であり,その速度は光速に達すると喩えて余りない.人間の生み出した新しい環境に,我らは適応していく.若者の劣化や日本人の劣化を唱える人たちがいるが,本当に劣化なのか,適応ではないのか.PCやスマホを使うとどうなるか,その視点で提供できるコンテンツを考えていける.

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