「大丈夫,経済は持続的に成長するから.」この考えをもう何年も自分に言い聞かせてきたことか.経済的な苦境に立たされても,株で損失が拡大しても,将来はもっと楽になる,と考えることで切り抜けてきた感慨さえある.政府の白書も,学校での教育も,線形に上昇するグラフで未来を予測している図を幾度もみたためか,これが資本主義か,と正体を見た気がしたものだった.
日本の雇用慣習である年功序列は,恐らく経済の持続的成長を前提にしていた.日本の高度経済成長は,ものを短期間につくりすぎて破綻した.道路の舗装も,住宅も,流通網もインフラも,完備されて当たり前になった.維持する仕事は残っているが,新規に作る需要がなくなり,急成長は望めなくなった.今後もし新産業が出ても,急に成長することは良策ではないと分かる.
エンジニア職で中年を迎える.昔ほど社会は遠くなく,身近な立場で経済を考える齢になった.今でさえ自分に囁くのだ,「大丈夫,経済は持続的に成長するから」と.持続的に成長するには,まず緩慢さが必要だ.急に焦っても成長しない.とてもゆっくり動いていけば,少しずつ成長できる.少しずつの成長を維持していくことが「持続性」ということだ.
いずれ世界がこれ以上ものを必要としなくなる日が来る.世界の需要が飽和する時代が来る.しかしながら,海洋資源や航空宇宙や人工知能という限のない領域で,産業は生まれ続ける.雇用は生まれ続け,労働の難易度は上がっていくなか,例えば,ロボットと次世代通信で,危険な労働を軽快化するシステムが開発される.人類は未踏の地を目指す.経済はやはり持続的に成長する.

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