この社会で革新が緩やかに起こる理由は,大企業の組織構造とベンチャーの資金の少なさによると思う.これだけ革新を急いで起こそうという気流がネットに多く出回っているのに,現実に革新はかなり緩やかにしか起こらない.もちろんこの数十年の変化が早いと感じる人も多くいるように思う.でも私には大変遅いと感じられる.しかし今までは遅いことを問題にしていたが,最近は革新は緩やかなほうがうまくいくと考えている.
経済成長は緩やかであるほうがうまくいく.これは私の経験知である.急いで拡大した高度成長時代の後に大不況が訪れたのは,高度成長を急ぎすぎたからだ.もし高度成長時代を緩やかな成長に置き換えたら,今に至るまで緩やかに成長を達成し,世界の革新に足並みを同じくできただろう.でも,高度成長時代に整ったインフラがなければ,私たちの世代の幸福は今ほど強くはなかっただろう.
高度成長時代に構築されたさまざまな都市やインフラや工業は,この国を世界のガラパゴスにした.これは良い面もある.成長が鈍くなったのに独自の文化圏を維持している国は世界的にそうそうない.この国は過去に独自の成長に成功し,それ以上の成長ができなくなるほど成功したから,他国一般のニーズとは異なる文化を生きるようになり,可哀相でもあるが個性的で面白い国になった.
この国には無宗教に生きる人は多い.それだけ優秀で才能があって知性にも恵まれた人物を多く擁しているのかもしれない.この国がもし頽落しているにもかかわらず豊かに暮らしているなら,なんでも簡単に手に入ることを強みとしているはずだ.国民の半数がお金を有るだけ使ってしまう国.緩やかな成長にもかかわらず,新商品のトレンドが回るこの国は,経済的な魅力が依然高水準で維持される国でもある.
