昨日私に絶交を申し込んだ男の話.彼と出会ったのはもう5年近く前になる.障がい者の就労施設で同僚利用者だった.軽い感じのファッションが好きなだけでなく,性格まで軽薄に見えた.すぐに分かったのは,嫌われることを極度に恐れて気を遣ってしまう.その気遣いは誰に頼まれたのでもないため,ほとんどの人にその気持ちは伝わらない.嫌われるのを恐れているんだなということが伝わるだけだった.
私が転職し1年目の終わりだったかに連絡をくれた.彼は長く電話する人で,1回のLINE通話で必ず1時間使う.私が研究や勉強に費やしたい時間を,彼の面倒を見るために費やした.自分の知識や知見を教えるのも勉強のうちだと思っていたからだ.彼にものを教えるうち,彼が驚くほどものを知らない人物だということがわかってきた.そして,年齢の割に考え方が恐ろしく幼く,勤続できる企業はないと思われた.
私が彼の面倒を見ようと思ったのは,この影が昔の自分に重なったからだ.10年前の20代後半の自分は似たようなものだったと思うからだ.大学院の研究室でお世話になった人たちが思っていたであろう感想を,私は彼に思った.そして,どうしてやろうかと考え,彼とは何回か買い物に行った.彼は高価なガジェットやブランドを好み,Apple製品を保有することがステータスだった.貯蓄という考えは皆無だ.
彼は今,アートを仕事にしようと本気で考えている.しかし腕を鍛えているわけでもなく,作品はプロとは言えない水準.職が見つかるとすれば障がい者施設のスタッフか介護職員と思う.デザイン会社には入れないだろう.私がこうしたことを思うのは,彼の作品を長年見てきたし,彼と共同で創作した経験もあるからだ.私が大きく整えた作品を彼は我が物とし人に見せるために使っていた.そうした心根も私は好まない.
彼はもう私の手に負えない.できることはした.あとはかつての私のように這い上がるきっかけを逃さないようにと祈るばかりだ.
