私は本を読む人間だ.しかし,私は本を読まない人間でもある.読書したいと思っても読書に時間を充てることができない.ただし,読んだ本についてはきちんと管理する.読んだ後,内容を反芻する.3日間は感想を考える.そして生活の中で活かしていく.最後に書き出すのである.読む本は正確に選んでいるつもりである.その時必要な本を都度選べている.なので読書に不満は特にない.
その時々に有効な本を求めていると,ある法則が浮かぶ.求めているのは3日間なのだ.3日経つと,求めていた理由を忘れてしまう.それなら3日経ってしまえば買わずに済むと思われるかも知れない.しかし.本を読んで言語化できなかった問題は,経験として残らず忘れ去られてしまうのだ.勿体無い.本を買うとは,経験を買うことである.問題を霧消させてしまうか,教訓を残すか.その後者の買い物が本なのだ.
そう考えれば,本をたくさん持っていなくて良い.必要な本は移り変わってゆく.何度も読むような座右の書も私には少なくない.けれども,一度大変役に立っても,2度と開いていない本の何と多いことか.それはその本が大したものではないということではない.その本から買った経験が,あまりに豊穣なので満足してしまうのだ.本によって経験となった体験が,今でも忘れられない.そんな本ばかりだ.
世に出回る本は素晴らしい本ばかりな気がする.少なくとも私の蔵書は素晴らしい本ばかりが揃っている.たった数千円で生涯役に立つ経験を買えてしまう.これを塵積もらせれば,人生は厭でも充実する.自分の知らないジャンル,知らない作家の知らない考え方がまだごまんとあると思うと眩暈がする.人はみな自分しかできないことを体験して生きている.本を読む人は世に少ないゆえ,読書は時間とお金をかけるに値する.
