なぜお金を使うのか.この答えが出ない限り,私は上手にお金を使えないだろう,いやむしろ,お金を使えなくなるだろう.どうせ無駄な買い物をすると思うと,自分からお金を使えなくなる.だから,この冒頭の問いには長くかかってもいいので答えを見つけ続けなければならぬ.今のところこの答えを持ち合わせていないので,今はお金を使えない.必要な物しか買わない.それ以上使うことが躊躇われる.
なぜこの疑問を持ったかといえば,物を買うと部屋が狭くなり,管理上の理由で時間も減っていくからだ.何のためにお金を使って空間と時間を消費するのだろう.空間も時間も自分で使い方を決めたい.だから買った物で空間も時間も占められるのは不自由ではないのか.空間と時間を自分のものではなくすためにお金を使っているのだ.つまり,物を買うことは自分で空間も時間も使わないための宣言なのである.
空間も時間も,見えない価値は莫大だが,敢えて見えるようには売っていない.空間も時間も,買った物で満たすためにあり,自分で満たす物ではない.空間や時間を自分で使う人は世の中にそう多くはないのだろう,彼らは率先して空間と時間を埋めることにお金を払い続けている.私など,空間も時間もできるだけ自分で設えた物で整えたいからか,もう買い物ができなくなった.もう余白の空間がないし,時間も同様.
結局,空間に余白を嫌い,時間の空白を嫌う.そんな人が多いから,お金は回って商品は売れるのだと思う.人間は退屈に負けるし,暇を嫌う.この性質が資本主義を回しているといえる.あるいは,退屈も暇も好んでやることを持つ人は,世の少数派になる.自分の空間と時間を売る人は,自分で何もすることがない人である.お金は空間や時間を買うためにあるが,物で満たすか創造的に費やすかは買った人次第だ.
