神学論文と並行して執筆を進めたいのが,小説である.といっても,何か文学のストーリーを書きたいのではない.シューベルトらの時代に,詩から音楽が生まれたように,音楽から小説を生み出したいのだ.小説というより詩に近いものになるかもしれないけど,音楽が先にあって文章が生まれる,という形式の装置で文章を書きたいと考えている.音楽があまりに豊饒なイメージを洪水的に提供するので記しておきたいのだ.
具体的には,第1作としてゴールドベルク変奏曲について小説を書きたい.2つのアリアと30の変奏曲によって構成されているので,32の章に分けて小説を描きたい.各章は音楽的想像力によって提供される世界に終始し,何か他の音楽作品のイメージの転用や衒学性を孕まないよう,真摯に聴いたところによる世界を描く.この曲を私はかれこれ500回は聴いており,これからも聴くことになるので,何より自分が楽しめるだろう.
第2作はパルティータである.これもバッハの作品になる.この曲もよく聴いていて,最初の五月晴れのようなメロディに始まる展開がいかにも抒情的なので,小説になるだろうと判断した.第3作は構想中だが,ベートーベンのソナタか,コンコーネを取り上げてみたいとも思う.前者はあまりに有名であるから,読む人の目は肥えているだろう.後者は練習曲のため,実現できれば斬新な取り組みとなるだろう.
こういうわけで,音楽を下敷きにした文章を書いていく.この取り組み自体,あまりなされていない仕事のようである.音楽を文章にするには批評か評論しか存在しなかったところを,小説のような描き方で音楽を表現するため,面白く受け取ってくれる人は少なくないと思うし,新たなジャンルを確立できるかもしれない.そんなわけで,今少し興奮しながらこの執筆計画を練っている.発表メディアは「Medium」になると思う.
