万里の旅,万巻の書.高校生の時,現代文の授業で初めて扱われた文章の題名である.森本さんという方の評論である.私はそれほど本気に文を読む生徒ではなかったからか,文学部へ行こうとなんとなく考えていた自分を否定し,ものを作る仕事をしようと思って高校を転学した.それ以来私は文を書くことを止められなくなった.自動思考といってもいいほど,常に何かを考える人間になった.でも考えるだけではいけない.
行動が伴っていなければ机上の空論だとか,動いてばかりで反省しなければ愚か者だという歴史上の常識を,痛いほど感じていた青年期.今となっては何かに身ついたものがあるかといえば,胸を張ってこれだといえるものはないけど,色々あってもずっと生きてきたことで何か安定した生活の基本を確定でき,今は生きるのが楽だ.本をたくさん読んできたことは大きい.その多くはつまみ読みであるが,効果はあった.
学問をすることが,人生で大きな意味をもたらしてくれた.20代後半から30代前半まで,数理科学の研究をしていた.大きな成果を挙げられた.というのは,20年近く疑問だったことを独力で解決したからだ.これは人生に大きな意味と精神の安定をもたらした.やればできるし,考え始めればいつか答えは出る.失うほど得る.これらを自分で証明できた気がして,自分にとって役立つ人生訓となった.処世術にもなるだろう.
結局,旅も読書も,自分の好奇心に従うことが最も良い生き方になることを気づかせてくれるものだと思う.世界を放浪しても千冊を読破しても,人間の望ましい生き方はこの辺りにあるのだろう.私は宇宙に関して一家言を持ったが,社会や経済や商品や技術に一家言を持つ人は多くいる.それこそ人生で大切に育て上げたものである.街を行き交う人たちが皆そんなものを持って生きていると思うと,感慨深くなり低頭する.
