読書の楽しみは,知識を得ることにはない.結論が決まっていて原因がはっきりしている問題の解答をたくさん読むのも,勉強にはなるし役に立つ.そういう能力も大事にしたい.でも,本当の教養はそこにない.本を読んでいいなぁと思う時は,いつも何らかの感動や疑問や好奇心が広がった時であり,さらに読みたくなり考える種が増えたと思う時である.そんな本に簡単に出会える時代で幸運だと思う.
一昔前は,文学・哲学・神学・芸術が教養科目だった.科学や数学では必ずしもなかった.ここ10年でSTEAM教育が叫ばれ文系の学問は嗜好品のような位置付けになった.だからこそ,文系の学問を学ぶ時間が非常な贅沢になり,多くの人が教養を求めるようになっている.その教養には素地という概念があるが,高校を出ていれば充分蓄積があると思う.誰でも教養を積むことができるのだろう.
その文系の科目に時間をかけられるのは,生活に余裕が出てきてしかも余力が残っている時だけだ.働いて疲れて眠ってしまったり,休日に無趣味を貫きSNSを眺めたりすれば時間は逃げ去る.余程の気力なり高い目標なりがなければ継続も難しくなるだろう.勤勉が美徳という時代は,実はまだ続いている.人生で何事か達成したいなら勤勉であることは最低条件である.読む本の選択眼も鍛える必要があるだろう.
教養とは何か,私が言えることはない.教養を満足に積んでいないからだ.でも,20年前の高校生の時よりは物事をいくらかわかるようになったし,分別もついてきて精神の制御も高度になってきた.振り返ると蓄積がある.でも,まだ私は満足しない.知りたいことが多くある.できるようになりたいことはいくつか思い浮かぶ.好きなことが今よりも増える気がする.教養とは知らぬ間についているものかもしれない.
