私は千葉県の東京湾岸の街で育った.中学では勉強と部活の単調で快活な毎日を送り,千葉県で最も難関とされる高校に入った.次席だったと思う.しかし高校は肌に合わず,2年生になると授業に出なくなった.代わりに,高校の附属図書館や近所の県立図書館,自転車で1駅の市立図書館で,自由な読書と勉強を楽しんだ.私の青春の思い出はこれら図書館で過ごした時間が全てで,大学では図書館情報学を専攻した.
特に,カフカ「城」や丸山健二を読んで強い印象を得た.また,書道や建築の本もよく読んだ.とりわけ私の思い出となったのは,県立図書館で見つけた星座の本だ.古い星図で,中学生の頃だったか父に連れられて一度借りたことがある本だった.それを再び自分で見つけたのだ.小学生の時,星座を全て暗誦できるほど夜空が好きな少年だったので,父も思うところがあったのだろう.しかし物理学科には進まなかった.
その星図を読んでいると,クラシック音楽のフレーズが聞こえてくる.私が幼い頃に父がリビングでかけていた音楽だ.さらに,高校2年の時に授業の代わりに自転車で駆けた千葉市の街並みが,その星図の世界とリンクして,私の青春の美しい世界を今も構成している.その星図および星座の世界は,私の数少ない青春の思い出そのものとなって,私の心にしまわれている.思い出すたびに満足し,自分の原点を思う.
YouTubeで星座を解説するチャンネルを運営している.再生数は全く伸びない.ゴールドベルク変奏曲をBGMに,1星座2分程度で解説する動画である.これは自分のために作っているようなものだ.私が育った思い出の集大成ともいえるからだ.脈絡のないように見える私の若い頃の人生が,星座に籠った思い出を想起すると,一条の幸福なストーリーになって思い出される.それこそ私の真の思い出なのだろう.
