結婚して5年くらいの間,ずっと幸せだった.27歳で結婚したので,32歳くらいまでということになる.親元から離れ,妻の住んでいる街に越して2人で暮らし始めた.私は新しく仕事を探さねばならず,無職で平日の昼間も街を歩いていた.その散策の時間が,今では非常に貴重な思い出で,ただひたすら幸せな光景として刻まれている.街の昼間の風景,整備された静かな街並み,世の中を学び始めた時期だ.
私はこの街で程なく障がい者として生活することになり,就労移行支援と自立支援を受け,月8万円程度の規模で暮らすことになる.当時から妻と財布を分けると固く決めていた.障害年金の受給が決まるまで社労士やケースワーカーにお世話になり,5年遡及で受給が決まった時は1銭も使わないと決めた.就労移行支援で近い将来の就業のために技術習得の訓練していた時は楽しいものだった.未来が明るかった.
今は当時と異なり,印象を新鮮に記憶する感受性は失われた.その代わりではないが,誰もに胸を張って言える職業と職人的技術,株式等数百万円の資産,買ってきた物,向上した健康状態を得た.人生が軌道に乗った.それは幸福だ.しかし,幸福になろうと努めた当時の方が,強い幸福があった.今のこの幸福は平穏なものだが,当時の幸福は強く鋭く芸術的な幸福だった.もう2度と体験できないだろう.
結婚してもうすぐ10年目に入る.今でも夫婦仲は良く,年々良くなっていると思う.20代で得られなかった物を,この数年で全て得た.人生に満足を覚えるようになった.これから何か困難なことが起こるのかもしれないし,さらなる努力を要求されるのかもしれない.しかし,より良い何かを求めてもっと欲求が強まることはないと思う.今が幸福であり,これが続けばいいからだ.これ以上を求めないことも大事だ.
