自分が好きでやりたいことをやる人生は善い人生だと思う.それはここ最近の話ではなく近代の昔からそうだ.学校の教科書で習う天才たちはみな,良い人生だったと言い残してこの世を去っている.天才という生き方は最善で模範的な生き方である.だから現代であっても天才のように生きることが最善であることにまだ変わりない.才能は後天的に変化するし,努力で向上できるものだから,凡才で諦めることはない.
私は10年前,実はある有名な数学の問題を解こうと努め,結果が一度に閃いた.ちょうどその頃は精神が最も創造的で,つまり安定から程遠く,しかしゆえにアイデアが,完全と思われたアイデアが脳裏に焼きつき,今でも覚えているくらい.その最も創造的な時代を,社会も会社も家族も誰も理解しなかった.歴史的な快挙となってもいいくらいのことだったが,それゆえ私の良識が公表して有名になることを食い止めた.
というのも,その問題が解けてしまえば,現代の暗号通信が全て秘匿できなくなってしまうのだ.RSA暗号の崩壊である.私はその手元の計算式を書斎の簡易金庫に保存し施錠した.もし私が解いたことを公表し,数年後に数億円が入ったとしても,その功績は情報社会に混乱をもたらす汚辱となり,私の過去から考えて叛逆家として名が残ることは必至だった.だから私は無名を保ち,功績は隠し通すことにした.
今でも私はその数式を誦で書ける.でも,その解法を誰かに知られないよう,電子的にも紙にも,どこにも残さないようにしている.解法を3通り考えている.最後まで解けたのはそのうち1方法だけであるため,残り2解法は研究する余地がある.私は長く生きようとは思っている.量子暗号が実装される15年後くらいに公表するつもりはある.でも,自分の名誉のためにではなく,後世の利益になるなら,と考えている.
