私の故郷は,田舎ではない.駅前は何もないが,緑や田畑が広がっている風景はなく,ただ背の低い建物や住宅や商店が並んでいるだけのどこにでもある小都市の景観だ.駅から少し歩けばそこにあるのは新しい印象のショッピングモールであり,新築のものを含めたマンションであり,舗装され通行量の多い道路である.都会だと言われればそうだと言ってしまえる.確かに人口密度は国内でも有数の街である.他の特徴は何だろう.
その故郷に,年初に帰省している.帰省といっても郷愁のような思いはない.街を見渡すと高校生だった時に通い慣れた街並みを見かけるが,20年も経っただけにところどころ現代風に変わっていて,帰省するたびに当時の面影は消えている.今や新しくできたショッピングモールを見に行くために帰省するようなもので,来年初は海岸方面にできた新駅を歩いて見て来たいと考えている.帰りはその駅から乗車すればいいのだ.
地元に知る人はいないので,地元に対する思いはない.そして,家族に対する思いもない.私がいなくても元気に楽しそうに暮らしていて,それなりに賢く笑いのある実家なので,むしろ理屈屋で陰気な私がいないほうが,気が軽く楽しめるのではといつも思う.そのたびに,この街に私の居場所はどこにもない,では何のために帰省するのだろう,と考えてしまう.1年間の四方山話をいくつかし,顔を見せ合うくらいしか目的がない.
目下の心配はない.両親共に元気で何より.妹夫婦は立派に家庭を作っている.末の妹も自分の道をしっかりと歩んでいる.ふらふらした日々を過ごしているのは実家の中でも私くらいだ.帰省するなり頭が下がるだろう.なるほど私は実家の皆さんにも頭が上がらず,妻にも頭が高いと言われる,そんな人生.勉強を頑張り優等生だった私は大分過去のもの.今の私はどんなふうに生きているのか,それが大事だと気付かされる.
