好きなことを仕事にする生き方は,万人に強いるものでない.何物にも束縛されないで生きたいと思っても,少しでも自分を売る気がしないなら,好きなことで働くことは向いていない.好きでもない仕事で生計を立て,仕事以外で好きなことを何の束縛もなく楽しむ.それで満たされるではないか.束縛されない時間が少しもないと案外つまらないものである.全くの自由にいると何もできないものだ.好きなことが束縛にもなりうる.
合唱団を辞めてもうすぐ半年になる.私は昨年2月,アマチュアらしくない体験をした.公共の大ホールでプロのオケと共に合唱曲を6曲も歌ったのだ.しかもプロ並みのチケット代で来場したお客さんたちの前でだ.私は練習はかなりしたが,大して上手くないのに,大きな体験をした.それは私の人生で一回きりの体験になると思う.なぜなら,私は代金を取るような発表会で歌えるほど上手くなることがないと思っているからだ.
私が合唱団に入った動機は,教会でより上手く讃美歌を歌えるようになるためだった.実際,腹から声が出るようになったし,呼吸が続き声が伸びるようになったように,自由に満足に歌えるようになった.私はクラシック音楽が好きだが,書斎のスピーカーで音源を聴くそれだけで最高に満足なのだ.つまりクラシック音楽は好きであるが,それでお金を取るような人にはなれないしなるべきでないと自分で思う.しっかりした意思だ.
合唱団には大人として素敵で優しくて素晴らしいメンバーばかりだった.私とは比べられないほど器の大きい人たちだった.合唱団での経験で,そんな方々と出会い語らった経験が,私の財産である.それだけだって私は大きな満足を覚えている.もう一度合唱団に入るとすれば,小さな発表会を体育館で行うくらいの小規模の団体を選ぶ.ただ小さく本気で楽しむための団だ.大きく華麗で完璧な歌の技術を磨く道は私には相応しくない.
