眺めるのが好きだ.私の好きなことを枚挙してみて,そこに共通するものを考えてみると,眺めることが好きなんだとわかる.眺めることにはお金がかからない.いくらでも細かく見ることができる.視点を変えて考えて見ることもできる.別に何か考えながら眺めなくたっていい.何かを得るために眺めることもない.ただ眺めることが楽しく,幸せである.何を眺めることが幸せなのか,以下に列挙してみる.
1.数式
数理系の本や論文を眺めるのが好きだ.理解しなくていい.ただ数式が連なっている文書を眺めているのが好きだ.英文も理解が追いつかなくていい.数式を眺めていると,数式や数学者が世界のある側面を描写している様子を眺めているような気がしてくる.内容そのものを理解しようとはあまり思わず,ただ眺めている.
2.楽譜
楽典には全く明るくない.けれども,音符や音楽記号を眺めていると,やはりそれは音楽を記述していて,つまりは時間的な流れを意味していることがわかるので,これら記号は時間を描いているのだなと思える.普段眺めていて空間的内容は得られるのだけど,時間を眺めることはなかなかできないことなので楽しい.
3.建築
建物の中に入って壁の模様や意匠をよく眺めている.あるいは,少し離れて小高い丘の上からだったり,道の途中ならその周りの環境の中に建っている状況を眺める.建築の工法や構造力学や設計の大変さはあまり詳しくは知らないけど,空間の中に設計された構造物が存在することの奇跡に近い驚きを感じて眺めている.
4.自然の造形
神が造作した雲や海や葉や木の枝や空,あるいは色や音やそれらを知覚する私の感覚器官は,誰が作ったのでもない.神がつくったものだ.それらの構造を想像したり,造形の形そのものの変化をよく見たり,人にはできないなとか神はなぜこのようなものをこの形でつくったのだろうか考え耽りながら眺めるのが好きだ.
5.小説
文字の連続を眺めている.小説を1語ずつ意味をつなげて丁寧にも読めるが,そう細かく表現を味わわなくたって表現の雰囲気が流れているのを追えればわりと満足してしまう.骨となる物語の展開や結構は押さえるにしても,ここでこの表現が書かれた意味を眺めていると,筆者の思いのようなものが見えてきて好きだ.
