先月末,無期雇用契約を結んだ.契約書は4月から有効になる.延長可能性のある定年まで,昇給なしの固定給が毎月入る.おそらく転勤も昇進もない.こうして私の経済的社会的立場は決定した.若い人たちが心のどこかで求めている超安定な労働人生に,私は乗れた.これはひとつの静かな達成である.人生における堅実な成功である.業務範囲をしっかり定義されており,職務が限られている.私はそれだけやっていればいい.
この働き方が,私には恐ろしいほどしっくりくる.毎月27万円余りの手取りである.充分すぎるではないか.昇進しなくて済むなんて恵まれている.専門職をただひたすら歩めば仕事になるなんて幸運だ.今も仕事時間の半分はその専門領域であるウェブや生成AIや視覚表現などの研鑽に充てていて,職務範囲のうちなので仕事であると主張でき,自分の得意で好きな線の上で知識や経験が高まっており,ただ私は得しているだけなのだ.
世代が違う人たちと関わるのは大変だ.どうしても初めてのことだと摩擦や軋轢が生じる.それを納得して解消する術をいくつか持つようにしているうち,私は人間を鍛えていることに気づいた.困らされても,逃げずに考えることで,その人を決して好きにはならないが,人間の豊かさが強まっていくように感じる.強くなり芯ができ,耐えられるほど太くなる.それは読書や研究だけでは成せない.自分を鍛えるために苦労するのだ.
いろんな人がいる.たくさんの人と仲良くやる必要はない.少しの人にお世話になって,大体の人同士は何らかの形でつながっているのだ,摩擦を増やさない程度の気遣いはする.でも,基本的に人を理解する姿勢で,理解しすぎないことも大事だが,そのわからない人たちの中で理解を示す側として,私が周囲の人たちの心の温度の点で役に立てれば充分である.なにが仕事なのか,定義は変わっていくが,これからも移ろうだろう.
