考えてみれば,働き方は自由だ.どのように働いてもよい.新卒で入社した会社で誰にも教わることなく身につけた態度は,考え直せる.そのときはいつも,自分の原点を振り返る.幼稚園の頃から文字や形を扱うデザイナーになると決めていた.小学5年で自宅にWindowsが入り,Excelでデータベースを作って遊んだ.高校は県内のトップ校に次席で合格したが,将来に直結しないわりに退屈な授業だったので自主退学し,美術系建築の学校で1年間デザインの修業をした.
大学ではなく専門学校からすぐに就職し経験を積みたいと願っていたのだが,周囲から学力があるのに勿体ないといわれ,専門学校より学費が安い国立大学に進学した.そこで学問に目覚めてしまう.あらゆる分野を広く修め,大学院生のとき初めて学会で発表し,別の学会では自主的にプレプリントを作って配った.就職先はCADを作っている会社だった.開発チームは神戸にあり,また,社員の模範になってほしいといわれたので,模範と聞くと逃げる経験から,自主退職した.
ともあれ退職の本当の理由は,安定した睡眠が必要な身体だったためだ.学生の時から興奮しやすく,というのも文字や形を好んでいるから,四六時中考えてしまい,なかなか眠れない.新卒で入ったその会社では毎日楽しく働いていたが,残業が重なりある日気づいたら退職手続きを済ませて実家の炬燵にいた.自分でも退職したわけが分からなかった.翌春にASDで障害者手帳をもらい,職業訓練を受けることになった.それから3年弱が経ち,今の事業所に就職した.
落ち着いて職能を磨けるようになったのは,今の事業所に就職してからだ.ウェブデザインを仕事としている.まだ2年経っていないが,自分に向いているからか,一度も苦と思わず,毎日新しい技術に挑戦し,2級技能士にも認定され,幼時の決意が叶った恰好だ.今後も勉強することが山のようにあり,それをどうやって掘り下げていくか考えるのを楽しみにしている.大学で学問をしなかったとしても同じ道を選んでいたはずだが,同じ道ならきっと,今この道のほうが良いはずだ.
