研究を社会人として続けている人口がどれくらいいるか知らないが,学校で習ったことをひとつも深めずに老年期を迎える人はほとんどいないだろう.皆それぞれが何らかの事柄に関心を抱けるからこそ,人間のさまざまな心情が養われていくのだろうし,そうであってほしい.勉強が単なる勉強で終わっていた人も,この情報環境や出版業界の創意工夫によって,いつでも止まっていたところから学び始められる時代になった.
とはいえ,社会人は時間がない.仕事とは関係ない知識を追う時間がとれない.社会を維持するためにそれぞれの職で仕事を進めていく中で,社会人が時間がとれないような分野の研究を行うからこそ,大学や研究所は価値があるんだと思う.高価な実験器具や,危険な配合,牛の歩むがごとく時間のかかる執筆.社会人でそうした研究を自宅環境で実現させている人は,ものすごく少ないだろう.
研究は社会を動かす.研究に関心を持たない社会になってほしくない.だから自分でアカデミックな雰囲気を醸せるようになりたい.自分で研究した経験があるのですでにそうなっているかもしれないが,意識してそうしようと思ったことはなかった.大学に行く価値のひとつはこのアカデミックな雰囲気を持つ人と出会い,その後の人生で出会うアカデミックな人間を大切にできるようになるところにある.
現在社会人になった自分には研究主題がたくさんあり,有望なものだけでも,メンガーのふるい,ポリゴングラフ,複素情報理論,牽引説,膜分隔,秘密論など,面白いくらいの豊作である.しかし,帰宅して最低限の家事をして,休日も予定を入れ,少し副業していると,時間はほぼない.ただでさえウェブ開発が面白くなってしまっている.容量も考えて引き受けなければならなくなっている.
