私は公務員の家柄に生まれたためか,会社員の基本を全く知らずに育った.組織内の役職の役割や,その心構え,仕事の見方.平社員とか下っ端と云われる若手とは,どのように振る舞うものであるか.これらは自分で考えるべきことであるかもしれないし,組織や時代によって異なるかもしれない.郷に入っては郷に従うのではなく,自分の見方に社風を合わせられる猛者もいる.でも,何も知らないままでは仕事も捗らない.新入社員とは一体何なのか.
自分の見方では,仕事を与えられることにまず感謝である.仕事は作るものである.誰かが困っていればそれは仕事になる.しかし,仕事は探して獲ってくるものでもある.営業である.自分で獲ってくることをしなくても,社内で仕事が与えられるのはありがたいのだ.ましてや仕事がなくなることもないのなら.ただし,仕事を与えられたのだから,与えてくれた人の指示は守ることに注意する.上司から与えられたなら,上司がお客様だと思えばよいのだろう,自分がどんな仕事をしたか報告する前に,約束したとおりの仕事になっているか確認するのだ.
平社員は給与が低い分,責任が軽いので楽である.また,実際に手を動かして作業できるのも平社員の特権である.実務で力が付くではないか.毎月,給料日が来るたび,どうしてこんなに簡単にお金が稼げるのか,考えると感謝しかない.人は謙虚になっていくほど見えてくるものが増える.仕事の腕を自慢している人ほど,自分で社会や顧客を動かして稼いでいるように思っている.しかし本当は,自分で動かせるのは自分の手ぐらいなのである.
これらのことを分かるために,私は10年かかった.多くの転職を経験し,何度も失敗した.このようなことを子どものときから身近に教わっていたら,もう少しスマートに社会人生活を送れていた.30代前半を終えようとしている今,大学3年から就活に専念していた級友らが賢く見えるようになった.でも自分にとって学問は大事なことだったし,適職に当たるには時期が重要だったし,今となっては万事うまくいっているので,特段後悔することもない.
