現行の計算機は脳への推論的洞察から生まれた.メモリ・ストレージ・CPUからなるこの計算機は,脳科学の進歩に伴い,いつか構造上の革新が起こると期待されていた.しかしそうはならず,計算機は現行の計算機のまま,今も世界で大量に生産されている.一方で,脳型計算機への期待はニューラルネットワークに結晶し,人工知能のソフトウェアとなって実現された.従って,脳型計算は人工知能にソフトウェアとして組み込まれ,ソースコードとして記憶されている.
脳はデータとデータを組み合わせる.そのまま保存せず,どこかでデータ同士が融合して格納される.入力は光や音波がほとんどなのだが,入力をそのまま保存することができない.入力を一部捨ててしまうこともあるし,ごみ箱に直接移動させてしまえるし,入力同士が入り混じって保存される.しかし,このデータの変換が,脳計算機ごとに異なるので,保存構造に個性が宿る.同じデータを入力しても,異なる構造に保存するので,同じ記憶を持つ台組は存在できない.
この入力浸透は,物質の移動によってゆっくり成し遂げられるので,脳型計算では物質の代わりに電気を使ってもそう変わらない.電気を通電すれば,入力浸透がイオン伝達より早く進むので,脳の成長を待たずとも,脳型計算を進められる.ニューラルネットでは閾値を決めておけるし,グラフ理論を使って回路の強化もできる.こうして人工知能ができるわけだが,その知能が人間の知能と同じ構造だとしても,それが最上の知能構造かどうかは定かではない.
現行の計算機は入力を正しくし,保存は入力ごとに分け,正しく記憶するから,価値がある.人間にそんなことはできないからだ.逆に人工知能は人間の脳と同じ構造だとすれば,人間にできることをするにすぎない.しかし,人間にできることをできるのだから,人間の代わりになってしまう.人間をプログラムで作ってしまえる.計算機は人間にできないことができ,人工知能は人間にもできることができる.今後,これらと異なる構造の計算機が誕生するとすれば,そのヒントは脳にはもうないだろう.筋肉や菌類や植物だろうか.
