私が新卒の時,世の中はクリエイティビティとコミュニケーションを求められると聞いていた.新製品の開発,綿密な協力体制.最近は人手不足のせいか要求されなくなった能力である.それを人手不足のせいにする論調があるが,こういう側面もあるのではないか.新製品を必要としない,新製品を買う必要のない,もしくは買えない,要らない,欲しくない.そういう層が年齢に関係なく増えている気がする.
研究の業界でも,新技術は時期を見計らって計画的に推進する気配があって,突然に新技術が生まれることはほとんどない.アイデアは尽きないが,泉のようにアイデアを出すと開発は加速する一方で,数十年後に発見されるべきアイデアが先取られてしまう.研究はもっとゆっくりと進めるものだし,技術開発にも焦りは禁物.新商品に飛びつく消費者はそれほどいない.普及したものを安く購入するだけで充分な人がほとんどだ.
理工系の金儲けはそういうわけで簡単である.知識は尽きないといわれるが,私はいつか尽きると思う.物理学で万物の理論が完成したら,生まれる技術は増える.その新しいパイである,時間旅行機,老化抑制器,豊乳装置,諧謔機械,といった技術の面々は,新市場を拓き未来の人々の暮らしを変えていくだろう.問題は,知識の生産が尽きても,作るべきものは減らない,作れる職人は常に必要だということだ.
ものを作って,買い求める.経済はそれで動いている.なるほど社会を変えるなど簡単である.私たちはこの経済が最も暮らしよく,問題を孕んでいても快適で,ほかの体制ではうまくいかないと考えている.月では月に合った経済を敷いて,月面建設を進めていくのだろう.つまり今の社会を変えるのは簡単だが,誰も変えることを望んでいない.創造性はパイのなかにおける創造性であるから,まずパイについて研究しなければならない.かといって突然天才が現れて全く新しい組み合わせを残すのだ,それゆえ世界は面白い.
