人生が守りに入ると成長しない,とよく言われる.そこそこの収入を得て,困難や不自由から免れた暮らしを送ると,生涯このままではないと分かっていても,現状の維持を考えるようになる.向上でもなく,堕落でもない.趣味に打ち込める絶好の立場だが,趣味を仕事にして稼ごうとは思わない.こうした暮らしを守りの姿勢というのだろう.
先ごろの選挙で,8時間働けば充分に暮らせる社会の実現を掲げた党があった.良いスローガンだと思う.よく考えれば,生活に困らないということは,守りの姿勢そのものなのであるが,今後の産業の推移をみると,平均的収入を得る人が増加し,趣味人が増えることは不可避である気がする.
守りに入る人が増えることは,社会の安定にとって最も好ましい政策である.社会主義が破綻した原因は,国中どこを回っても資本の差がない体制に飽きたからだろう.もし社会主義に未練があれば,国民は易々と経済体制を入れ替えなかったはずである.国民が一斉に守りに入った国家は,しかし今なら飽きられないかもしれない.
趣味人同士が交流しやすい時代である.趣味を極める人生は,様々の創意と裕福をもたらす.資本主義国家で社会主義的生活を送ることが,現代までの最高の配合である.今後それが続くと考えるのは,しかし守りに入った人の考えだ.止むことなく天才が現れ,社会を新たにし,失脚して揺れ戻した後,世界史は上昇する.
