《「その天才の不安」… 大胆な語が2つ.多すぎる.》ある作家の随筆にこのことばを見つけた.真っ先に思い出したのは芥川龍之介氏である.遺書に残された「不安」の文字.明治期の天才作家の名を不動のものにしたのは,この大胆な迫力の故.高校生だった私は大いに悩まされたものだった.芥川氏はなぜ自ら滅びたのか.消滅する才能と持続する才能は何が違うか.才能の持続にはどういう条件が必要か.
そもそも才能が消滅する条件はいくつかある.ひとつはやめてしまうこと.もうひとつは物故すること.つまり,才能は何かを生み出す能力だから,生み出せなくなればそこで止まる.続けているのに生み出せなくなることをスランプというが,やめなければ脱出できる.スランプには「懐胎」「発酵」「充電」という別名があり,脱出後の作品には磨きがかかっているはずと期待される現象でもある.
本当に才能が消えてしまうことは珍しいと思う.「基本と原則に反する物事は必ず破綻する」とドラッカー.反逆のロックは,反逆の精神に則るうちは成功を収めるが,人間の生活に反省するとき往々にして消えてしまう.一時的な作家はそう作られている.本が売れなくても書きたい話を書き続ける作家.こんな時代だから売り出し方に工夫がいるけれど,本当に読む価値のある作家とはそういう作家だと思う.
宗教的には才能とは神が与えた賜物.持続するかどうかで測らず,用いられることを感謝する.その用いられ方が才能である.確かに才能は獲得するよう求めるものだし,充分に得ても満足せずに用いられ続けるから,決して消滅するようなものではない.持続する.神の国と神の義を求めることで添えて与えられるもののひとつである.だから殊更才能を誇ったり独自の所有物と慢心すると神の相から見て間違うだろう.才能の所有権は自分ではなく神さまにあるからだ.

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