本を読み切るという経験は,その人の認知構造を深める.まるで全部を知ったかのように,その本の主題や感想を語り尽くせる.反対に,どの本も途中で読むのをやめ,机の隅に積む読み方は,続きを知りたくなる気持ちが続く間は,その人の好奇心を持続するよう鍛え,一時的に満たされて終わることを避けられる.また本を買いたくなって購入し机に積まれるうち,研究課題は増える一方となる.読み切っても積読しても有効なのだ.
特に厚い本や難しい内容の本を読み切ると,一介の専門家になったような気がする.実際そうなのかもしれない.専門家だって一冊の本を完全に知っているわけはないし,好奇心を点ける主題は恐らく同じでない.興味を持って読み終えた本は,世界の誰も経験したことがないであろう知識状態にその人を高め込み,物の見方を変え,その人は個性的になってゆく.それ以降も個性的な道のりを歩むようになるのだ.
問題は沢山あるし,答えだってわんさかある.まず大事なのは,問題に気づき,掬い取り,掴んで離さないことだ.読み切るからには,その本の問題を共有する経験があるはずで,その経験は自分で気づいた課題であれば,有意義に読み切ってさらに先を深めることができる.最終的な答えが出ている問題もあるようにみえるけど,そんなものはない.1と1の和が2でない代数系を構築して新しい群論を始めたっていいのだから.
独創の答えを出す営みは,人生を本当に豊かにする生き方だと思う.誰も知らない知識を人に話すとき,誰もその人を罵倒しないし,軽蔑もしない.むしろほとんどの人から静かな尊敬を得るだろう.もしあなたが高校生でいじめを受けたり外見で困っていたりで今後の未来を憂えているなら,本を読み切ることを勧めたい.そして問題を抱えていることに気付いてほしい.その問題は少なからぬ人が抱えているが,答えが浅いところで堂々巡りしている類の問いかもしれない.読書が誰かの役に立つ,そういう生き方を選び取れるかもしれないのだ.

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