有期雇用の契約更新通知が机の上に置いてある.内定受諾書を来週末までに事務局へ郵送することになっている.それを躊躇している.来年度も今の職場で働いていてよいのか,疑問符がついている.尤も,晴れて内定したのだから,受諾すれば1年間また働けるだけの単純な話で,内定を断る理由はないように思える.職場の上司もウェブ技術を買ってくれているし,上長も契約更新をあっさりと了承してくださった.私は職場で技術的に詳しい人材として一定の有能な社員として名前が通っているようで,期待してくれる人や頼りにしてくれる人も実はいる.
そんな私であるが,内定を断ることを決めるには,それなりの正当さを持つ理由が要る.私には務まらないのではないかという恐れ,迷惑をかけているのではないかという遠慮,役に立っていないのではないかという焦り.そうした感情で理由付けしても,慰留されるか一笑に付されるか,そのあたりの反応が関の山.有期雇用契約が更新されたら,普通は喜び勇んで受諾書に署名し,すぐに封書で投函するのかもしれない.でも私はそうはなれない.慎重になるし自分を疑うし,浮足立つ気配はなくむしろ落ち着いて沈思黙考してしまう.
思えば高校の合格の時も,合格番号を掲示した板の前で歓喜した同級生が多かったなか,私は入ってからが大変,自分が困るだろうと思い,少しも嬉しい気持ちは湧かなかった.大学合格の時も,自分が合格してしまったことで落ちた人がいる事実の前に申し訳なくなり自分の部屋で夜を泣き明かした.自分のせいで何かが変わってしまうことへ極度の恐れがあり,自分の存在さえなければ世の中はもっと良くなると本気で信じる節がやはり今でも強い.生きることが申し訳なく思う,この感情に対峙して生きてきた.今回の雇用契約更新でも,変わらない.
自分さえいなければいい,という思い続きには利点もあることを最近知った.自分さえよければいいと決して思わない,という効果だ.私にはよくわからないけど,自分さえよければいいという考えは,人を不自由にしたり閉じ込めてしまったり,つまり人間の罪のひとつらしい.いわゆる自分中心の考えである.私はそんな人間の基本的な性質も兼ね備えていないのだと思うとますます自分は生きるのが苦手だと思わざるを得ないが,自分さえよければと考えないことによって,貴重な友人知人を維持していると思うと,泣けてくる.その涙の向こうにある自分の性質を見極めれば,自分の価値が分かるようになるのかもしれない.

コメントを残す