失うことは,物事を理解するための最も簡単な方法である.失いつつあったと気づけば,失われきる前に修復できる.ラッセルは云う.「誰でも相応の暇がなければ人生の最もすばらしいものと縁が切れる.多くの社会人がこのすばらしいものを奪われている理由は,単に暇がないからだ.今やそれほど長く働かなくていいのに,禁欲主義に突き動かされて働きすぎる人が,今も相変わらずいる.」疲れて横になったり入浴していたとき急にこの一文を思い出し,そうかと思い書斎でゴールドベルク変奏曲をかけた.
今週は振り返ればいろいろ忙しくしていた.黄金週間の後なので仕事の量はそれほどでもなかったが,つい仕事が面白くて終日仕事のことを考えていた.したがって,暇がなかったことを認めざるを得ない.仕事が楽しいことは好ましいことだ,だが暇を持っていることほど優れたことはない.人生の最も素晴らしいもの,それが何であるかさえ弁えていない人だって少なくないだろう.暇があれば碌なことをしないと真剣に信じている人だっている.しかし,暇こそ最も大切にすることだと私は確信する.
文明や教育で伝承される,文化.鑑賞から創作,批評まで,関わり方にはいくつかの側面がある.どの方法で親しんでもよいと入門書にあるように,まず親しむ,それがどれほど難しいことか.人生の時間のどのくらいの割合を,どれほどの情熱を,傾けるか.真剣な姿勢を取り続けることが,どれほどの困難とともにあるか.簡単に反省してみても,慣れと飽和と怠慢で,どれほどの時間が注ぎそびれてきたことか,思わされる.文化に親しむことは無限に楽しいこと.日々の忙殺で忘れていても,いかにそれを思い出して復帰するか.
軽やかに復帰できれば,まだ大丈夫.難しく思っているとき,それは単に疲れているのかもしれない.眠って新しい朝を迎えれば,取り組めるかもしれない.長く忘れ去っていても,文化や趣味はいつも近くにある.いつ戻ってきたっていい.暇を持て余すくらい余裕のある暮らしが,最も文化的な生活である.このことを確認するためにこの記事をしたためた.暇は人生で最も贅沢なもの.暇のためにお金を払ったって良いようなもの.私はきょう改めて暇の重要性を認知した.趣味の世界をさらに拓けそうである.

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