学問で最も面白く感じるのは,視点がガラッと変わってしまうときだ.知る前と知った後で世界の見方がまるで変わってしまうような考察だ.そんな考察には一生のうち数度も出会わないかもしれない.この貴重な機会をものにしたとき,学問が始まる.そして,学問だけではないが,振り返ってみて初めてあのとき得たあの知識のおかげで今の自分の見方があると思わされるのだから,自ら振り返ってみるのも手だと思い,自分の学問半生を反省してみたい.ガラッと変わるような考察を5件紹介.
1.世界の問題は解決できる
世界を完全に記述する理論が存在するという見方.ウィトゲンシュタインの論考から学んだ知識.世界は描き出すことで完全に書き出せるが,時間によって移り変わることを描くには,その変化のすべてを記述できる言語で描くことが必要になる.世界を完全に書き出す方法は,万物の理論をはじめ,いくつかの形態が存在しうる.そのどれもが同じ形式を共有しているならば,その形式こそ世界を描くのに最も相応しい言語であり,もしすべての方法で共有する形式を見出せたなら,それが現時点の万物の理論,すなわち世界を完全に記述する理論である.
2.数理があれば現象がある
数学は形を表すから,数学があれば現実にもある.数学のなかに見つけた形は,必ず現実に存在できる.筋が通っていればそれは存在できる.実現できるかどうかが未知数なだけである.物理的に真であれば,そこには未発見の物質的材料や工学的機構が潜んでいる.数理的理論が存在するならば,実現や発見に不可能はないのでは.数学は不可能なことを表さない.だから数学は最も根本になる学問だし,新たな数学を作り出せば発明や発見の源となるし,世界が変わる見方がまだ多く潜んでいることを知れて,ますます引き付けられるのだ.
3.見えることがすべてではない
物事は必ず何らかの形を持っているが,必ずしも人間の肉眼で見えるばかりではない.顕微鏡や望遠鏡を使って初めて見えるものもあるし,精密な測定器具を使って計算して初めて見える形に出力できる物事もある.情報も知識も図や写真で見えるようにできる.けれども,見えることばかりではない.まだ見えない物事がこの世界にはたくさん潜んでいて,人間に切り取られるのを待っている.まだ世界に存在しないものも,将来の私たちが作り上げるものだ.今見えることだけで世界は終わらない.人間は更に見えるようにするべく探究を続けていく.
4.自然も世の中も流れている
動きがない物事は存在しない.必ず万物は動いている.動くとは流れていくこと.流れを整理すればさらさらと流れていくし,流れを抑えれば淀んで反応が起きる.流れを調整することが物事を制御するということ.流れるはずなのに流れていない場所や,逆に流れが止まるはずなのに流れてしまっている場所には,未知の知識が隠れているサイン.流れをよく観察することで発見の当たりが付けられる.本来はこうあるという常識と,今はこうなっているという観察,そしてより良くはこうであるという理論が,発見を確実にする要因となる.
5.信仰は知識に勝る
最後は宗教.いくら学問で苦労しその末に偉大な発見を成したとしても,信仰がなければ不幸だ.たとえその発見の功績で有名になる余生を過ごしても,自分の力で成したと勘違いするなら愚かなままである.知識の飽くなき追究も,研究に向かせる無垢な好奇心も,探究の終わりなき情熱も,信仰がなければ単に精巧な作り物である.信仰の道の上で成された知恵は真の知識であり,偽なる知識は人間を不幸にする.しかし神さまは未発見の知識を小出しに与え,探究を続けさせる一定員の人間を社会に放し,神への畏敬を人間に呼び覚ます.神なき知識は空虚.

コメントを残す