ティーンズの頃から,出世や商売をできるだけ経験せずに済ませたいと考えるようになった.進学校で好成績を収める必要がないし,そもそも進学校に在籍する必要もない.自分の人生に最も必要なのは,芸術だ.そのためのアート感覚だ.若いうちに磨いておいた方が将来後悔しないだろう.その感覚があれば,他のことだってよりよく楽しめるだろう.そういう考えで私は高校を転学し美術予備校で建築を学び始めた.
実際,美大に行けるだけのお金はなかった.両親に相談したところ,アートは仕事でなく趣味にしなさい,または美大に行かずに仕事にする方法を考えなさい.そんな結論に至った.芸大も美大も受験を諦めることによって,一浪する道を選択した.浪人といえ模試で好成績だったので学費は無償だった.かかったのは交通費くらい.新卒就職の年齢による年収不利も考えたが,大したことないと思ったものだ.
これだけ経歴に拘らず収入にも大した価値を置かずにここまで生きてこられたのも,幸運の限りだと思う面はある.でも本当は職業選択も資産形成も,いつだって始められるし過去は関係ないことなのだろうと今は考えている.勉強はいつでもできる.貯蓄もいつでも始められる.スタートが早い人はアドバンテージがあるが,早くからやって何かいいことでもあるのか.人生の時間全体から計算すれば誤差である.
今,商売も出世もせずに済む地位を得て安住している.大変にゆとりのある道である.何もかも自分の思い通りになったからである.大変満足し後悔が全くないのは,ティーンズの頃から悩んで挑戦して悉く挫折したからだと今では思う.後悔がないように人生設計するコツは,つまるところ,求めること,望むことである.それがなければ始まらない.そして,それらが青写真に写れば,後に必ずその通りに具現化するはずだ.
