海外文学を文庫で50冊ほど持っている.まだ読み終えた本はない.定評ある著者と訳者だけに,読むのに苦労しないし,読んでいて楽しい.話しを仔細に追うことはしないけど,読後に生じる感想を書き留められたら,どれほど実のある時間になるか考えたことがある.文学の役割.文学は何のためにあり,生活にどう役立つのか.文学は科学ほど生活に役立っていないようにも思える.
生活に役立つ知識を提供する本,医療や実用書やお金の本は,よく読まれているし,読書していますという人のほとんどはそういう実用書を読んでいるように思う.そこから生活に役立たない本を読むのは無駄であるという考えが出てくる.でも,本当にそうだろうか.この問題は逃げ道が多数存在するので,ここでは答えのない問いとして考えてみたい.結論から言えば,心を広げる効果があると思う.
なぜ文学が生活に役立つ面があると言えるか,それは世界の見方が増えるからだ.自分の世界観だけに固執しなくてよくなるから.自分の知らないところで展開される物語があることを知れば,世界の見方なんて人それぞれで人の中でも複数混ぜ合わされていることに容易に気づける.事実談でも想像の上であっても,話しの中身や語り方がひとつではなく,自分の話しや語りを多層的に構成できる,つまり話に幅ができるからである.
文学に基礎研究はないのかも知れない.しかし,本を読むことで身体に注がれた文学的流体は,心の深くまで浸透し自分固有の流れに合流する.それが文学を読む効果である.文学に時間をかけて読む効果は,人の話をよく聞けることに留まらず,世界の理解の仕方を変えてくれる.世界は単純であるが,必要以上に単純化すべきでない.心は世界を捉えるから,世界より広い.心を広げるのが文学である.
