私は社会に出るまで,役に立たない本ばかり読んできた人間だ.数学,物理学,哲学,科学,文学.世間の多くの人が嗜むことのない無駄な領域の本である.そのわけで,精神的にとても裕福に生きていた.しかし,社会に出て働くようになり,実用書の類をよく買い求めるようになり,無駄な本は読まなくなっていた.おかげで専門性を身につけることができ,平均より少し良い収入を得るまでになった.
しかし,かつてのように精神的裕福をすっかり削られてしまった.あの貧しかった学生時代の裕福な気持ちを取り戻すことはできるだろうか.そう考え,海外文学を文庫で挑戦しようと20冊くらい買い,全部で50冊くらいの文学文庫棚を設えた.今ちょうど読書の秋であるが,それ以降も読書を続けようという目的である.服は買わないが本は買うことにしたのである.
学生時代の裕福さを分析してみる.未知の分野や未来への準備のため,読書と思索をずっと続けていた.父から教わった習慣である歩道の散策を,休日に文庫1冊を片手に夕暮れまで行い,帰宅し思索した内容を部録にアウトプットしていた.その時間が当時の裕福な心を形作っていたようで,当時参考に読んでいた著者の部録は,今でもブックマークして読んでいる.
この読んで歩くという習慣を,再び本気で取り組んでみたいという動機である.当時と異なるのは,アウトプット環境が格段に高性能になったことと,結婚し生活が安定したことである.良くなっている.問題はただ当時の心の豊かさを忘れてしまっているという1点に尽きる.当時ほどものを考えなくなってきている.文学に刺激され思索が充実するか.この秋の取り組みで変化できるかも知れない.
