目立たないように生きること.お金持ちの生活様式を聞いて意外だと思ったのは,服装や持ち物を見窄らしくし街を歩くことだ.さすがに質の悪い安物ではないが,ブランドものを身につけてはいないし,質の良いブランドものだとしても目立たない品を身につけるという.街を歩く老年者の中で目立たずに行き交う人の中に億万長者がいることは,あまり知られていない現実だろうと思う.
お金を多く持つと,人が寄ってきたり人に騙されたりで,不幸の種が増えることが知られている.だからこそお金持ちは目立つことを嫌い,街行く貧しい人たちと同じように,その波に溶け込むように外見を装い,華美でお洒落な小金持ちの陰に隠れて息を潜める.街を隠れる日常は,なるほど面白い生活ではないのかもしれない.やはりある程度の資産を持つに止め,大金を持つことは人生を幸福にするとも限らないのかもしれない.
日本では億万長者が20人に1人の割合でいるという.この街を歩くと行き交う20人に1人は億の資産を持っていると考えてみる.襤褸を着て古い鞄を抱えたいかにも貧しい通行人がいる脇を,ある程度のスタイルで清潔な身なりをした老年者が通り過ぎる.その老年者は億を超える資産を築いた賢者かもしれない.目立ちすぎないためには,悪すぎても良すぎてもいけない.本当に誰の目にも止まらないということだ.
こうして考えてみると,目立たないようにひっそり暮らすためには,非常な知恵が要るように思える.単純に孤独だろうし,元来目立ちたい人にとってはとてもつまらないだろう.何のためにお金持ちになったのか,しっかりとした目的を人生においている人でなければ億万長者は務まらないのではと思える.私も将来そうなりたいと今明確には思えていないが,そうなってしまう未来もありうると仮定したいと思っている.
