お金は何を買うためにあるか.衣食住には上限がある.身体はひとつだから,1日に30点も身に着けられない.胃袋は有限だから,1日に3,000円分も食べきれない.住む場所を3ヶ所も持つ人は稀だ.また,一般に,家電を買うことで時間を買っている.家具を買うことで環境を買っている.情報を買うことで行動を買っている.私たちは一体何を買うために生きているのか.何を買うために何かを買っているのか.
この答えはおそらく,暇である.暇が最も欲しいのだ.なぜか.考え,思い出し,作り出す.思想や記憶や創造性は,個人にしか持てない持ち物である.他人がそう簡単に買い求められるものではない.個人にしか持ち得ない持ち物を持っていると自覚するために,私たちは物を買っている.個人の持ち物を自覚するためなら,暇を買うし,道具を買うし,刺激を買うし,学習を買う.私たちは相変わらず,多くを持ちたい.
私たちの現代は,多くを持つ人が増えるにつれ,同じようなことを持つ人が多く現れていることを知っている.自分にしか持ち得ない持ち物を持つことが,だんだん難しくなっている.多分多くの人がそう感じている.自分にしか持ち得ない持ち物とは何かについて吟味すると不足を感じ,もっと磨かねばもっと研ぎ澄ませねばと考える.そして,多くの人が出した結論は,自分と同じ組み合わせを持ち物にする人は稀だということだ.
組み合わせはそもそも買えない.買ったものを組み合わせられるのは買った人だけである.持ち物を組み合わせられるのは持っている人だけである.つまり自分にしか持ちえない持ち物を組み合わせて自分にしか持ちえなくしている人が,この時代の最も賢い持ち主だということになる.しかし,組み合わせの持ち主も稀ではなくなる時代がもうすぐ来る.組み合わせることが稀ではなくなる.すると賢い人はもう何も買わないだろう.
