FIRE(経済的独立による早期退職)を求めるのはなぜだろうか.距離を取れるからではないか.労働人生で稼げる金額は大方決まっているので,その額をどれくらいの早さで稼いでしまうかというゲームが,つまるところ「労働」である.40歳で2億円稼いでしまえば,その後働かずに暮らすことができる.私なんぞは働かなければ暇が有り余るので何かしらの仕事で働いていたいと思い,今も平均的給与で働いている.
最近思うのは,渦中にいることが疲れて面倒なのでそこから離れて暮らしたいと思う気持ちを理解できるようになったことだ.若い日には新しい仕事を覚えて毎日働きに行っては多くを学んで楽しい日々を過ごすけど,ある程度仕事上の自立が叶うと,業界の中心や最先端で活躍することが疲れて面倒に感じられる時がある.だからもっと郊外や周辺業種や社会の片隅で,必要とされる仕事を黙々とこなす職業人を選びたくなる.
東京の中心でバリバリと仕事するより,少ない誰かから感謝されるように働く.中心地から距離を取った仕事をするほうが,安定し落ち着き満足な労働人生に変わる可能性がある.FIREにはこれに似た方向を感じる.欲するのは「距離」なのだ.若き日の野望や夢を叶えてしまった人間が次に望むものが,距離なのだ.引退し離れて暮らす.騒がれず静かな環境で,黙々と日課をこなし,メディアからできるだけ距離をとるのだ.
ずっと最前線に立って活躍を続ける人は稀である.だがその理由は,距離をとりたくなるからだろうと思う.有名になりたい人は,満足できるくらい有名になってしまったら,そこで引退を考える.お金を稼ぎたい人は,早く稼いでしまった頃から,退職を考える.次の目標を立てられる人は強いと思うけど,皆がそうではないし,皆がそうなるべき理由もない.願いが叶って引退するのなら,一人の人生の喜び,美談である.
