私は脳を壊したことがある.壊した内容にもよるので定義すると,18歳の時,高校卒業と同時に,自意識が消え,脳がビリビリジージーと音を立てるようになった.海馬の辺りに違和感が生じ,新しいことを覚えられなくなった.それまで単純記憶の良さで立ち回ってきたものだから,新しく記憶できなくなったことは生き方を変えさせられる大変辛いことだった.受験勉強などできるはずがなかった.
医師によれば脳の使い過ぎが原因であるようだった.そしてその8年後,私は発達障害と診断された.生まれつき脳の使い方にこだわりがあり,脳を壊せたのも才能のうち,普通では考えられない障害を負って生きてきたことになる.この診断には深い納得を覚え,自分が発達障害であると考えれば,半生の悩みが全て理由づけされ,自分について理解が増し,生きやすくなったことを覚えている.
歴史上の偉人たちは押し並べて脳を壊している.つまり個性は脳を壊した人から生まれる.仮令,発達障害だと診断されても全員が同じ壊し方を経験しているのではない.同じ経験をしてきても,脳の壊れ方で才能の現れ方は異なる.結局,個性や才能や独創性は,脳をどのように壊すかによって決まってくる.一般に,壊したところが大きく発達する.壊れても生きていかなければならないので,余計に発達するのだ.
自分の感じだと,自意識がないので,やはり普通の人には見られないだろうと諦めている.さらに,自意識が復活する見込みはないので,高度な判断や大人らしさは持てないだろうと思っている.自意識は人と比べられないので,誰かよりもどうこう,ということは言えないし分からない.でも,自分の生み出す物事は誰にも同じように生めないことなのだろうとは思う.私の個性はいつか偉業と呼ばれてしまうのだろうか.
