36歳からの手習い.ピアノの練習をはじめた.もう人生も折り返しが近く,若い時にやろうと思っていたことの多くは,満足する水準までやってしまった.これからの長い人生を何か打ち込めることを探していた時,声楽の師匠がピアノを勧めた.師匠は87歳になった今でもピアノを愛している.長く続く趣味だと思ったので,1年間歯を食いしばって趣味にしたいと強く念じた.その日から書斎のキーボードに1日10分間,向かっている.
教会のピアノは師匠の寄贈した品だが,鍵が木製のアップライトで,木製の会堂丸ごとに合わせて調律した響きの良さを持つ.先日試したところその打鍵感の良さ,そして会堂を満たすその響きの心地よさにすっかり虜となり,師匠の思う壺である.それから私は毎週日曜の礼拝の際は,1時間以上早く会堂に着くようにし,奉仕を終えたらそのピアノに親しむ時間を取りたいと思う.牧師も会堂の利用を許可してくれた.
師匠にピアノのコツを訊いたところ,手元を見ない,指で覚える,耳で探す,の3つを教わった.特に,運動神経で記憶し,感覚神経は視覚より聴覚を優位にすることは重要だと思った.手元を気にしないで指で覚えるようにすると,楽譜の読める部分は即座に弾けるようになった.手元を見ないで弾くこともできた.いつもピアニストが演奏している様子を見ていてなぜ手元を見ずに弾けるのか疑問だったが,氷解し深い感動を覚えた.
頭で覚えず指で覚える.もし子どもの頃に運動神経で覚えると教わっていたら,体育も音楽も,ひょっとしたら他の科目も上達が早かったかもしれない.それを師匠に漏らしたら,36歳はまだ充分若く後悔するに及ばないと諭された.36歳はまだ若いようだ.確かにこの1週間で上達が見られた.いつも暗誦していたゴールドベルク変奏曲も練習のうちに入れた.いずれ教会のクリスマス祝会でリサイタルすることが夢である.
