小説を読み終えると,大学時代の光景が印象に残る.私の大学生活は,大抵の人がそうであるような青春ではなかった.私の人生で最も輝いているのは今.学生時代は暗闇そのものだった.高校から馴染めなかった上,大学でもそれを引きずり,友人はおろか学業も碌に修められないほどの精神不安定ぶり.入院もしたし逮捕もされたし自殺企図も.その結果,留年もして友人は悉く去っていった.残るものは学問の探究心だけ.
もし高校を乗り越えていたら,大学でより素晴らしい生活を送れていたはず.知識を得て活用する喜びも覚えてまともな人格成長を遂げられたかもしれない.でもそうはならなかった.奇行は易々と成り,自意識の膨満からくる勘違いと取り越し苦労に魘され,杞憂に時間と心を奪われるままだった.もちろん就職できず,就職する意思も弱くなり,筆記は通るが面接で落ち続けた.社会の主流から外れたことを誇りさえした.
私の記憶は16歳で止まっていて,それから10年間は自分に関する記憶が全くない.自分から逃げていたか絶望していて,教会へ通い始めた27歳の時から,中断していた自分史は再開する.程なく結婚し,今の街に移り住むが,最初は社会に適応するため自分を失うことをひとり泣いたりしたが,それは人間成長の軌道に乗ったことを意味する.それから8年,今では社会人として一人前になったか心許ないが,成長はした.
つまり私の20代は自分ではなかった.想像し探索し適用するだけで,自分を意識していなかった.だから今思えばもっと上手くやれていたはずなのに,当時の私は今の私ではありえないので,当時の自分にはとてもできなかったのだ.同級生で早熟な人物は幾人もいた.学問に向き合っていた人も今思えば少なくなかった.しかし私は今この道を歩んでいる.級友が今何をしているか興味はない.でも元気であることは願っている.
